未来の話
「ユーリ、聞いていますか?」
頭上から降ってくる声は、咎めるというにはいささか甘い。
「聞いてるよ」
ユーリは視線を落としたまま、短く返した。
背後で座る男に抱きかかえられた身体は、柔らかな拘束で身動きを封じられて久しい。
少し執務が忙しくて恋人らしいことができなかった自覚はあるけれど、護衛として常に傍にいたのだから彼だってそれは十分に理解しているはずなのに。
今日は俺だけのユーリでいてください。
久しぶりの休日の朝、そう宣言した通りに片時も離れることはなく、今もこうしてソファで寛いでいた。
「愛してます」
何度目か分からない囁きは、低く甘く。しっとりと耳に馴染む。
「はいはい」
放っておくといつまでも囁き続ける男へと、もう十分だと告げると、不満そうな視線が向けられた。
「分かったから」
数え切れないほど聞いてきたはずの言葉は何十年と共に時間を重ねても、いまだに胸の中に熱を生むのだからたちがわるい。
すべてを受け止めていたら、こちらがもたないのだ。話半分ぐらいでちょうどいい。
後ろ手に伸ばした手で、背後の男の柔らかな髪に触れた。
「もう黙ってろ」
うるさい唇を塞いでしまえとばかりに引き寄せれば、絡んだ視線の先で銀の星を宿した瞳がうれしげに細められた。
(2015.02.12)