チャレンジ
積極的に膝に乗ってきた恋人の表情に、コンラートは、おや、と内心で首をかしげた。
「ユーリ?」
「ちょっと、じっとしてて」
「……はい」
恋人同士、ベッドの上で向かい合うには不似合いな、何か意気込むような様子の恋人を不思議に思いながらも言われた通りに、伸ばしかけた手をシーツの上へと落とす。
「えーっと……ここ、かな?」
何がですか、と聞いていい雰囲気ではなさそうだ。
小さく呟いた恋人が、勢いをつけてコンラートの胸元に顔を埋める。
突然のことに驚いたコンラートは、肌を吸われる感覚に気づいて、目を丸くした。
「ん〜〜〜ッ」
2、3秒ほどかけて強く吸い付いた唇が、離れていく。
いきなりどうして? と疑問のまま見つめた恋人は、コンラートの胸元を見て不満げに眉を寄せていた。
「なんで付かないんだよ」
「ユーリ?」
自らの胸元へと視線を落とせば、先ほど触れられた箇所は少しだけ色を変えていた。
「もう一回!」
同じ場所へと狙いを定めて、唇が押し付けられる。
目的が分かってしまえば、その感触さえもかわいらしく感じて、コンラートは喉の奥で笑った。
「笑うなよな」
2度目の挑戦の結果を確かめた恋人が、一度目と変わらぬそれに何故だと不満を漏らす。
どうしてそんなことをする気になったのか分からないけれど、所有の印ともいえる口付けの痕を残したいと思ってくれたのだと知ればうれしくて、コンラートは恋人の腕を取った。
腕の付け根の内側の、白くやわらかな肉へと唇を寄せてみる。
「先に少し濡らして。唇は閉じたまま、時間をかけて吸ってみて」
唇を押し付けたまま、説明したとおりにやってみせた。
たっぷり十秒かけて吸ってから唇を離すと、残されたのはあかい痕。普段は、彼の肌に決してつけることのないそれに目を細めた。
「なんでそんな簡単に。なんかむかつくんだけど!」
自分の肌に残った痕を確かめた恋人は、どうしたことか、ため息をついてコンラートの膝から降りようとした。
「試さないんですか?」
「なんか、むかついたからもうしない」
「それは残念だな」
して欲しかったのに、と続ければ自らの腕を見ていた視線がこちらに向いた。
笑いかければ視線が泳ぐ。悩んでいる彼に、「してくれませんか?」ともう一度ねだれば、彼は「仕方ないな」とコンラートの肩へ手をかけた。
もう一度、唇が肌に触れる。
最初とは違う、コンラートが教えたとおりの手順で施されたそれは、消えてしまうまでの数日間、コンラートの宝物になるだろう。
(2015.11.16)