寒い日には
暖炉の火がパチパチと爆ぜる音がする。
訪ねた恋人の部屋は、適度にあたたかくとても居心地がよかった。
いま抱えているクッションだとか、履かされたふかふかのスリッパだとか、そういうものがすべて自分のために用意されたものだからというのもあるのだろう。
触れ合うかどうかの距離でソファに隣に座る恋人をちらりと見たユーリは、手にしていた本を閉じて間近の肩にもたれかかった。
軍服から着替えた部屋着は薄く、その分だけ肌が近くてあたたかい。
「どうしました?」
同じように本を閉じたコンラートの尋ねる声がやわらかい。笑み交じりに、ユーリの返事を待っている。
だから、ユーリはどう返そうかと考えて。
「……さむい」
ひねり出したのはそんな一言だった。
部屋の中はまったく寒くない。そんなこと、隣にいるコンラートだって分かっているだろう。
暖炉の火はまだ衰えることがなく、部屋をあたため続けている。
けれど、さむいのだ。
ひとり分では足らない。いま隣にある体温を感じたい。
「じゃあ、一緒にあたたまりましょうか」
察しのよい恋人の提案に、ユーリは「うん」と小さく頷いた。
ベッドまでのわずかな距離でも、ベッドの上でもたくさんのキスをした。
その間にも、恋人の手は迷いなくユーリの寝間着を剥いでいく。
あっという間に黒い小さな下着だけになったけれど、さむさよりはこの先への興奮が勝っていた……はずだったのだが。
「−−ックシュ」
キスの隙をつくように、ユーリの唇から小さなクシャミが飛び出した。
別にさむいと感じたわけじゃないのにと目を丸くしたユーリより、驚いていたのはコンラートの方だったようで。
「え、なに?」
シーツの上に寝かされていた身体を引き起こされたと思ったら、ユーリの身体は毛布に包まれていた。
さらに毛布の上から両腕でホールドされるものだから、身動きさえうまくとれない。
「さむいですか?」
額をこつんと触れ合わせながら問いかけてくる恋人の瞳にあるのは、心配の色だけだ。
クシャミひとつでさっきまでの甘い空気は霧散して、ユーリの返事次第では脱がされたばかりの寝間着さえ着せられてしまいかねない。
この状況でそれはないだろうと、怒ればいいのか笑えばいいのか。
考えて、ユーリは笑った。
これはこれで、愛なのだ。
もぞりとユーリが身じろげば、少しだけ腕の拘束が弱まった。
「さむいから、あったまるんだろ?」
さっきベッドへ誘ったようにもう一度誘いながら毛布の端を持ち上げれば、コンラートの表情がようやく緩まる。
二人で包まれた狭い毛布の中で不自由ながらに残りの衣服を脱ぎ去れば、どちらともなくあたたかいと笑みがこぼれた。
(2016.05.07)