エイプリルフール
朝食をとりながら囲んだテーブルの中心で、ユーリが「忍者」という魔術を操る者たちの話をした。
地球の中でもユーリが育った日本にのみ存在するという「忍者」の名は地球に行った際にコンラッドも聞いたことがある。
いたずらっぽく笑ったユーリの視線の意味を理解して、コンラッドも「聞いたことがありますね」と地球で得た知識を披露した。
四月一日の、他愛のない朝の一幕。
「ユーリ、あなたが好きです」
いつも通りの執務をこなすユーリへ昼休憩を促したコンラッドは、食堂へ向かう途中でユーリへと愛を囁いた。
なんたって今日は四月一日−−お昼までは嘘をついても良い日なのだ。正確な時刻としては、正午をほんの少し過ぎているのだけれど、それはコンラッドしか知らないこと。
ぴたっと足を止めたユーリにぶつからないように、コンラッドもすぐ後ろで足を止めた。
黒い髪に覆われた頭のてっぺんにあるつむじを見下ろしながら、コンラッドはユーリの反応を待った。
怒るかもしれない。笑うかもしれない。あれこれ想像したどの姿の彼とも違う。
固まったきり動かず、一言も口を聞いてくれないユーリを前に、先に折れたのはコンラッドの方だった。
「ユーリ」
そっと呼びかけながら、彼の顔を覗き込む。
告白と一緒に、なに言ってるんだと驚くだろう彼に「エイプリルフールなので」なんて言い訳も最初から用意していた。
エイプリルフールなので。でも、名付け親として、臣下としてあなたを大切に思っていますなんて、嘘ではないけれど本当でもないずるい言葉まで用意していたはずなのに。
固まったまま耳まで赤くした彼の顔を見た途端に、何も言えなくなってしまった。
伝染したように、耳のあたりが熱くなる。久しく忘れていた感覚に、コンラッドは思わず片手で顔を覆った。
今日が四月一日だったと思い出したユーリに「嘘だったんだろう」と否定をされてコンラッドが慌てることになるのも、嘘ではないと信じてもらえた後で「誤魔化すつもりで告白なんてするな」と怒られるのも、ほんの少し先のこと。
(2016.10.12)