こわれもの
壊れ物にでもなった気分だ。
自分の考えがおかしくて、ユーリは小さく口許を緩めた。
大きく笑えなかったのは身体がくるしかったから。ほんのささやかな刺激さえ、いまはつらい。
シーツに沈んだ身体は、呼吸さえままならない。汗だか涙かさえわからないもので目許が滲んで、視界もぼやけていた。
それでも、嫌だと感じないのは、自分をこんなにした相手に抱きしめられているからだ。
「ユー、リ」
心配そうに自分の名を呼ぶ声がする。
はっきりと見えないけれど、彼がどんな顔をしているのかがわかってしまうから、ユーリは仕方ないなと言いたげにもう一度わらった。
「だいじょ、ぶだから」
身体はぜんぜん大丈夫じゃない。強がりに聞こえたかもしれない。でも、嘘をついているつもりはなかった。
初めての事だらけで混乱する身体に、恋人の指先や唇が優しく触れてくれた。じれったくなるぐらい、ゆっくり、ゆっくり。まるで少しでも乱暴に扱ったら壊れてしまうとでも思ってるみたいに。
自分より彼の方が怖がっているように感じたほどだ。
こうして繋がっている今でさえ、いまだ躊躇いを感じる。
そうさせてしまうほど自分はつらそうだろうか。
でも。
「あんたが思ってるほど、おれは弱くないよ」
こんなことで壊れたりしない。
少しでも近くにいきたくて大きな背中に腕を回した。汗ばんだ肌にしがみつく。
相変わらず呼吸さえくるしい。身体の中の異物感は消えなくて、大きく開いた股関節もつらいけれど。
「おれは、うれしい、から」
いままでで一番ちかくに感じる恋人に、好きだよ、と告げたユーリは、ぎこちなく笑って、息をのんだ恋人の唇へと唇で触れた。
(2016.10.12)