ほしをみおろす
「なに笑ってんだよ」
「すみません。でも、抱き上げようとしたら嫌がったのに」
ベッドに運んでくれようとしたのを自分で歩けるからと断った。ついさっきのことを思い出しているのだろう。
目の前でおかしそうに目を細めたコンラッドが、おれの機嫌をとるみたいに唇で頬に触れた。ちゅ、と甘い音がする。それが二度、三度と続くうちに、彼のたのしい気持ちが伝播して、おれも彼の頬にキスを返した。
いつもなら彼が屈まないと届かないキスも、彼の膝の上に乗った今ならこんなにもかんたんだ。
目の前の肩を押したら、コンラッドが後ろに倒れた。肘で僅かに上体を支えた彼を見下ろすなんて、なかなかない経験におれの口許が自然と緩んだ。
「たのしそうですね」
「まあね」
見上げられるなんて、滅多にないし。
両手で頬を包んで上向かせながら、唇を啄ばんだ。少し冷たい唇は、触れると意外にもやわらかくてきもちいい。
触れれば届く距離で、銀の星が強く輝きながらおれを見ていた。
「目、閉じろよ」
「ユーリだって」
マナー違反はお互い様か。
せっかく星を見下ろしているのに目を閉じてしまうのが勿体無くて、唇がふさがっていたこともありそれ以上の文句はやめにした。
(2016.10.12)