「…んー?」
長い髪を後ろで人括りにした、長身の青年は振り返る。その瞳と髪は、日が落ちる前の天空を飾る鮮やかに深い青だ。
首を傾げながら、人混みを注視し―――しかし目的のものは二度と見ることは叶わぬまま、神がかった美形の青年は再び前を向いた。
「どうしました?」
青年の隣を歩く、男。青髪の彼よりもほんの少しだけ背の低いその男もまた、タイプは違えどもかなりの男前である。茶色の髪と、薄茶色の瞳。二人揃って歩けば、本来なら衆人衆目に曝されてもおかしくなさそうな所だが、しかし何故か周りの人込みは、彼らを見ない。正確には、見ないように努力している。
「なーんか、グウェン並のナイスミドルになったあんたを見たような見なかったような…」
「…お望みなら停滞の呪法を直ぐに解いて貰いますが?」
青年の言葉に、僅かに拗ねたような男の声が掛かる。
青年は苦笑して、手をぱたぱたと振った。NOのサインだ。
「やだ。折角今僅かでも見下ろしてんのに、あんたの成長停滞解いたら抜かされるかもじゃん」
そうして、自然な動作で、それこそ止める暇も避ける暇もなく、青年が男に軽く接吻ける。
今の方がキスもしやすいし、と続けて、徒らめいた笑みを顔に張り付けて嘯く彼に対し、茶髪の男は苦虫を数匹くらいは噛み潰したような胡乱気な表情になった。
流石に最早、これしきで顔を赤くする時期は過ぎたとは言え、公衆の面前である。周りが見ないよう果敢に目を逸らし続けてくれていることだけが幸いであろうか。
“デート中の彼らの邪魔をするな”は裏法規定とまで呼ばれる、王都の慣習だ。
「陛下の成長は嬉しいですけどね…何か中身があんまり変わってない気がするんですよ…」
この人が幼かった頃にあった慎みは何処へ消えたんだろうと遠く思いながら、溜息を吐き出す。
「そりゃそうだろ」
「?」
男の頭を、青年がまるで幼子にするように優しく撫でる。男はされるがまま、少しだけ高い位置にある青年の瞳を、見上げた。
今は青に隠された深遠。その真実は、夜よりも尚深い、暗黒。
「変わるわけねーよ。昔も今も、おれの中、あんたへの愛しかないもん」
「………口は上手くなりましたね…。だから今更俺を口説いてどうするんだっていつも…」
抜け抜けと。青年は衒いのない言葉で、愛を紡ぐ。
男は瞳を伏せて、僅かに視線をずらした。それを見遣って、青年が至極楽しそうに口元を上げる。
微かに染まった頬を、伴侶に見られないようにする為のただの照れ隠しであるのだと、知っているからだ。
「愛してるよ、コンラート」
いつも負ける。傍にいた100年、一度も勝ったことなどない。惚れた方が負けなのだ。きっと一生勝てないのだろう。これからまた同じだけの時が過ぎても。
男はそう思って、諦めたように肩を竦めた。逸らせた顔を青年に向けて、目を細めて笑う。
「……俺も愛してますよ、ユーリ」
愛情以外を感じさせない柔らかくも無防備に晒される微笑みに、青年はぐ、と息を呑んだ。
お互いがお互いに勝てないなんて思ってることを、彼らは未だにまだ知らない。
100年。それは長いのか、短いのか。
恋情は薄れても愛は残る。劣情は過ぎても温もりは消えず。
歩き続けた道程。そこに在るのは確かに息衝く、二人分の想いなのである。
END.
「あとなんかやたら小綺麗なたぶんきっと恐らくおれもいたな」
「……はァ?」
海朱春姫さま(Honey*Star Strawberry*Dead)より頂きました!
相互リンク記念に我侭を言って大人な次男と陛下をリクエストさせていただきましたっ。
コンユとユコンで2度美味しいですよ!!
ナイスミドルな次男&麗しい陛下のイラストにも、ラブラブなコンユコンにも思わず叫びながらジタバタしちゃいました。
さすが春姫さま!
バカップルを書かせたら右に出る者はいないんじゃないかっていう、ラブラブっぷりにニヤニヤです。
図々しくも一生に一度のチャンスとばかりにお願いした甲斐があったというもの!
この度は、素敵な二人を本当にありがとうございました!!(礼)
(2010.01.05)