プレゼント! - すずしろ苑/聖護院ひじりさま

「あ…」
 思い出した。てか、なんで忘れてたよおれ。嘘。まじで? 嘘。誰か嘘だと言ってくれ。
 軽いパニックに襲われ、どんなに後悔したってもう遅い。ユーリはすっかり失念していた。
 いつも祝って貰う一方のコンラートに、じゃあおれもあんたの誕生日には、と言ったのはもうずっと前のことだ。
 夏の生まれ、としか判らないらしい誕生日を自分と同じ日に設定して、以降、コンラートが自分にお祝いを用意してくれるように、ユーリもコンラートに用意するようになった。
 いつも護衛の域を超えて何くれとなく世話をかけているコンラートに感謝の意を込めて贈り物を用意するのは楽しかったし、彼の喜ぶ顔を思い浮かべてあれこれ吟味するのにもワクワクした。
 コンラートへのプレゼントを選ぶのはとっても大事なことで、楽しみで、それで嬉しくって…だからうっかり忘れるなんてのは有り得ない筈なのに!
 もう今更どうにもできないことだと現実を受け入れ――何しろ現在7月30日午前1時13分――諦念の放心状態になりながらそれでもまだ未練がましく後悔する。
 ユーリの誕生日の前が忙しくなるのはいつものことだ。通常営業に祝賀行事とそれに付随するあれこれが加わって、何かとせわしなくなる。
 だから秘書官たちが気を配ってくれる訳でもない、コンラートへのプレゼントのことなんて、自分が覚えていなきゃ誰もフォローしてくれないことで、そんなの毎年のことで。
 気がついた時にどうしてメモしとかなかったのか。
 あ、いや、しようとしたんだ。確か。執務室のペンたての右に置いてある試し書きの端に。
 しようとして、だけどあの時、ここはあまりにもコンラートの目に触れるなぁ、なんて思って。
 がっくり項垂れる。
 なんであの時書いておかなかったのか。別に『コンラッドのプレゼント用意すること』なんてずばり書き残す必要もなかった。『例のアレ』とか自分さえ解ればいい適当でよかったのに。書いとけばこんなことにもならなかった。先週の自分を絞め殺してやりたい。
 毎年小忙しくても、きちんと忘れず用意してきたからこそ、まさか忘れるなんて。こんな土壇場になるまですっかり失念してしまっていた。忘れていることすら忘れていた。ああ、忘れるというのはそういうもんか。
 ぱたりぱたりと髪の先から滴が垂れて、ユーリは肩にかけていたタオルを被って身体を起こした。
 雑に髪を拭いながら、どうしたものかと思案する。いや、どうしようもないのだけど。
 何しろ、もうこのあとすぐ、だ。
 魔王の誕生日を祝う夜会を退席してきて、コンラートに送り届けられたのが半時間前。重い衣装を解いて湯を使って。プレゼント片手にコンラートの部屋に向かおうか、というこの段になって、やっと気がついたのだから。
 正直に忘れていたことを言って謝るしかない。まぁ、もちろんコンラートはそんなことで腹を立てたりはしないだろう。けど。
「拗ねるだろうなぁ」
 そしてユーリもこんなことでコンラートへの愛情を疑われても困るのだ。いや、実際忘れていたわけだけど。だけど断じて気持ちが目減りしたとかそういうのではないから。断じて!
 あらかた水分を取った髪を手櫛で梳いて、しょうがないと諦める。
 運び込まれた大卓の上にユーリ宛の贈り物は山積みなのだけど。いくら切羽詰まっていてもその中の手頃なひとつをコンラートに、なんて…。
「――素直に謝ろう…」
 ユーリは憂鬱の溜息をついて腰を上げた。



 ユーリが訪れると、コンラートはまだ礼服のままだった。
「ごめん、早かったかな」
「いえ、少しばたばたしていて。ボダルト卿のブローチが無くなったとかで」
 護衛の元には紛失だとか盗難だとかの事件も持ち込まれるらしい。
 ユーリはボダルト卿のブローチとやらを思い出そうとして諦めた。そもそもどんな装束をしていたのかすら思い出せない。久しぶりに領地から出てきたんだっけ、老けたな、と思ったくらいしか。
「結局、御子息、今の御当主のボダルト卿が駆けつけて下さって。今日はそもそもそのブローチはお持ちでなかったことが判明して」
 そうそう、若い方、っても彼も初老だけど、現当主のボダルト卿が孝行息子らしく御隠居さんに付き従っていた。
「そっか、勘違いならよかったよ」
「ええ、祝いの席で盗難騒ぎはね。ですがそんなでボダルト卿が随分恐縮なさってたので」
「ああ、わかった」
 何かの機会でのはからいを請け負って、ユーリはコンラートに汗を流してくるよう勧めた。
「ゆっくり入ってこいよ。待ってるから」
 好都合だし。これは言葉には出さずに。
 ではお言葉に甘えて、とコンラートが浴室に消えて、だけどきっとユーリを待たせまいと大急ぎで出てくることが解っていたので、ユーリも腹を括って急いだ。
 ポケットから取り出すのはユーリ宛の贈り物の一つから失敬してきた赤いリボン。青や金、黒なんていう魔王宛専用まで様々な色や質感が揃っていたが、やっぱりここは狙って行くなら赤だろう、とこれをチョイスしてきた。
 背に腹は代えられない。
 ええい、とユーリは着ていたものを脱ぎ捨てた。



聖護院ひじりさまより頂きました!

長く一緒にいるのに、ずっと変わらずに愛し合ってる感じがたまらんです。
たまらんですが、読み終えた後、速攻で「続きは!?」というメールを書いたのは言うまでもありません。
この後に待っているはずのめくるめくえろい世界が読みたいですよね。
じらしながらリボンを解く過程とか、逆に結んで軽い拘束プレイとか、いろいろあるじゃないですか。
というわけで、皆様ぜひ「続きを書いてください!」というメッセージをひじりさんまで送ってくださいませ。
みんなで送れば書いてくれるはず。

素敵な誕生日プレゼントありがとうございました!
でも、続きをお待ちしております。

(2013.07.07)