Happy Halloween
「Trick or Treat」
ベッドの上で甘く囁くコンラートの言葉に、ユーリは困るべきか怒るべきかを悩んで、結局はどちらも放棄した。
「お菓子なんて、もってない」
「知ってますよ」
それもそうだ。
ポケットにキャンディを忍ばせていたズボンは、先ほどコンラートの手によってベッドの下に落とされたばかりだ。
「うわっ」
圧し掛かられた拍子につばの広い魔法使いの三角帽子がぽとりと落ちる。
殴るつもりはなかったけれど、つい身を守ろうと翳したステッキはあっさりと奪われた。
「お菓子がもらえないなら悪戯ですね」
意味深に笑うコンラートの頭の上には、彼の髪と同じ色の獣の耳。
悪戯どころではない。一夜限りの狼男はどうやら目の前の獲物を丸ごといただくつもりらしい。
「くすぐ、たい」
狼男に扮したコンラートの首に巻き付いたファーがキスをするたびに首のあたりにこすれて、ユーリは身じろいだ。
魔王陛下と護衛ではない。魔法使いと狼男。
お互いに身につけている服が違う。ただそれだけのはずなのに、何だか少し気恥ずかしい。
「肌触りがいいでしょう?」
「……ん、ぁ」
身体をずらした狼男が味見をするように魔法使いの喉を舐めた。それから、夜を連想させる色のマントを胸元でとめるカボチャを模った飾りに、イタズラに唇を寄せる。
「なんで、マント、だけ……」
マントの下のシャツは肌蹴られたのに、マントだけはそのままだ。
どうして脱がせないのかと問いかけを受けて、コンラートは楽しげに目を細めた。
「せっかくの格好だから、脱がせてしまうのがもったいなくて」
「ん、っ……」
かわいい、という言葉が続いたのは気のせいだろうか。
確かめる前に、ユーリの唇から小さな声がこぼれた。
コンラートの両の手のひらが、はだけたシャツの間に忍び込んだのだ。
弱いわき腹から少しずつ上へとずれていく。脇の下までたどり着くと、悪戯な親指が小さく膨らむ飾りを見つけて、押しつぶすように撫でつけた。
「ぁ……」
中途半端に乱れた服も、下着の中で形を変えようとしている自身も恥ずかしいと、逃げるように身をよじる。
お尻がちょうど隠れる長さのマントでコンラートの視線から仄かに色づいた肌を隠したユーリは、うつ伏せながら火照る頬を枕に押しつけた。
「かわいいね」
そんなことで逃げられると思ったわけでも、本当に逃げ出したかったわけでもない。ただ、身の置き場がなかっただけの行動をコンラートも分かっていたのだろう。小さく呟いて、ユーリの腰を引き寄せた。
膝を立てさせられた拍子にふわりとマントの裾が揺れる。
肌との境目に大きな手が入り込み、太股からゆっくりと這いあがる。ぞくりと背中があわだって、ますますユーリは枕へと顔を押しつけた。
マントがゆっくりめくられるにつれて、足のあたりがスースーしてくる。見られているのが分かる故の居心地の悪さを感じたのは、露わになった下着をずりおろされるまでだった。
「おいしそう」
二つの丸みの片側に、かしり、と歯がたてられた。偽物の狼は、決して肌を食いやぶるようなことはしないけれど、ユーリの唇から甘い声を引き出すには十分な刺激で。
「ぁ、や、だ……」
軟らかな肉の感触を唇で、歯で、舌で確かめる。その間もあちこちを撫でる手は、ユーリを慰める意味は持たず、追いつめていくだけだった。
気持ちよくて、だから、それが苦しい。
下腹部で張りつめた熱が、触れられぬまま腹につきそうなほどに反り返り、解放を求めて濡れていた。
「ユーリ」
甘く呼ばれて苦しい姿勢のまま振り替えれば、欲を孕んだ視線とぶつかる。
「こん、らっど……ぁ…」
食べてもいい? という狼男の問いかけを拒否することなど、できるはずがなかった。
(2014.10.27)