小ネタ5
なんでもない振りをすれば良かったのだ。
部屋の中心に並ぶ布団を前に、つい動揺をしてしまった。でも、それなりに広い部屋だというのに隙間を空けずにきっちりと布団が二つくっついていたら、動揺しない方が少ないのではないだろうか。
先に動いたのは、コンラッドの方だった。
なんでもない顔をしていつも通りの笑みを口元に浮かべた彼は、右手側の布団の上に腰を下ろすなり、おれを招くように両手を広げてみせた。
風呂上がり、旅館の備品である浴衣は揃いのデザインのはずなのに、どうしてだか彼とおれでは、まったく違うもののように見える。
緩く着崩した姿はだらしなさなどどこにもなく、それどころか少し粗野な感じが普段の彼とは異なる雰囲気を出していて……。
「おいで、ユーリ」
見とれていたのと、躊躇ったのとで、布団の前から動けずにいるおれに、コンラッドが呼びかけてきた。
相変わらず広げられたままの両手が、おれが飛び込むのを待っている。
せっかく二人で温泉旅行に来ているのだ。コイビト同士なのだし、そのまま隣の布団に入るのも寂しい気がする。かといって、素直に飛び込むのも恥ずかしい。
ぐるぐると悩んだ末に、おれはえいやっとばかりの彼の腕の中に飛び込んだ。
彼の足をまたぐようにして膝の上に乗ると、はだけた浴衣の裾が気になった。
たっぷりと長風呂を楽しんだ体はすでに火照ってはいたけれど、それとは異なる熱が触れられた場所から広がっていく。
背中を支えてくれた手は、おれが彼にしがみつくのを待ってからゆっくりと動き始めた。
襟のあたりを後ろに引っ張られると、肩から布が落ちて中途半端に脱げかかる。
「ぅ……ぁ……」
彼の上に座っているせいで、いつもよりも顔が近い。恥ずかしさで頭に血が上った。
間近の距離で笑いかけてくる彼の余裕がくやしいと同時に、骨髄反射みたいにかっこいいなとときめいてしまう。
ちゅ、と一度触れあった後ですぐに離れていった唇が次に触れたのは、おれの喉だった。喉仏のあたりを舐められて、ゾクゾクと背筋が震える。
「ぁ……コンラッ……」
二度、三度と繰り返す間にも大きな手が背中を撫でながらどんどん浴衣を乱していくものだから、いつの間にかおれの浴衣は帯でかろうじて留まっているだけの状態だ。
彼はまだ風呂上がりとさほど変わりないのに。
恥ずかしい。体が熱い。恥ずかしい。
でも、嫌じゃない。
反射的に引いてしまう体を、コンラッドが追いかけてくる。バランスを崩して倒れたりなんてことにはならない、というか、コンラッドがさせないのは分かっているとはいえ、不安定な体勢が怖くてつい彼の浴衣を強く掴んでしまった。
背を支えていない方の手が、いつの間にか乱れた裾から大腿に添えられて、撫でるようにしながら更に浴衣を乱していく。
くらくらした。
どんどんと這い上がる手がいよいよ足の付け根まで到達し、下着を留める紐に触れる。
触れられてないのに熱が集中した下着の中では、直接的な刺激が欲しくて存在を主張していた。
喉のあたりを舐めていたコンラッドの頭がさらに下がり、鎖骨を甘く噛んでから胸元にたどり着くのを待って、浴衣ではなく彼の頭を抱きしめた。
「っ、ん……ぁ……」
期待してしまう心も体も恥ずかしい。
恥ずかしがる必要などないのだと落ち着かない心を慰めてくれたのは、無意識に腰を揺らしてしまった時に気づいた同じように浴衣の下で高ぶる彼の熱だった。
(2013.05.12)