小ネタ7


「ユーリ」
「ちょっ、コンラッド、なにして……ぁ」
 Tシャツの裾から不意打ちのように入り込んできた大きな手が、無遠慮に薄い布を胸まで捲り上げた。
 突然の出来事に驚いている間に引き寄せられた先は、コンラッドの膝の上。
 おれが逃げるよりも先に、もう片方の腕がズボンのウエストに触れた。
「ま、まてって」
「どうして?」
 ちゅ、と軽い音とともにうなじに汗とは違う濡れた感触。
「どうしてじゃなくて、んっ……」
 部屋着のハーフパンツのウエストはゆるいゴムで出来ていて、簡単にコンラッドの侵入を許す。
 冗談で済まされなくなる前になんとかしたいのに、別の意味で冗談で終わらせる気のないコンラッドが、下腹を緩く撫でた。
「あ、あついから!」
「すぐに気にならなくなるよ」
 触れてくる手のひらも、触れられるおれの肌も、じっとりと濡れていた。
 暑いからと襟ぐりの広いシャツを選んだのが災いして、押し付けられた舌先がうなじからゆっくりと下に下がる。
 しょっぱい、と笑う声に体温が上がった。
「まだ、昼間、だから!」
「明るい中ってのも良いですね」
「そうじゃなくて!」
 どうしよう。どうすれば。
 やわらかい手つきで下腹を撫でていた指先が、下着のラインに触れた。今度はゆっくりと横へと移動して、再サイドと止める細い紐にたどり着く。
 結び目に引っ掛けた指を引かれると、少しだけ体積を増した中心がきつくな締め付けられた。
「ユーリが、あんまり無防備な格好をしてるから」
 耳元に寄せられた唇が、まるでおれのせいみたいに低く囁いく。
 普段着だし。そんな意味なんてないし。
「ぁ……」
 何度目か分からない、コンラッドの指先が下着を引く。
 むずがゆい感覚が嫌で腰を引けば、押し付けることになったお尻にコンラッドの熱を感じて、逃げ場がないことを教えられた。


「んっ、ぁ……」
 ザァザァと音を立てて頭上から降り注ぐシャワーはまるで雨のようだ。
 温めに設定されてた湯は。火照った肌に心地良い。
「ゃ……コ、ン」
 居間で触れ合ったばかりの身体はまだ半分は夢の中。
 ぼんやりとしている間に抱き上げられ、連れてこられた浴室では壁のタイルに凭れかかって立っているのがやっとだった。
「ん、んっ……」
「かわいい」
 水分を吸って重く張り付いた前髪を撫でてくれる指先を優しいと感じたのは最初だけ。
 間近へと近づいてきた顔がすぐにぼやけた。
 唇を塞がれ、うまく呼吸ができない中で滲む視界がシャワーのせいなのか涙のせいなのか分からないまま、目の前の身体に縋りついた。
「っふ……ぁ……」
 覆いかぶさってくるコンラッドの大きな身体が受け止めたシャワーの湯が、おれの肌へと伝い落ちる。そんな僅かな刺激さえも、肌を粟立たせ、身体の奥から一度収まったはずの熱を再び呼び起こす。
「ここ、溢れてきてる」
「ぅ、ぁ、あ……」
 腰を撫でた手が下へと移った。丸みを帯びた尻の間をつつく指先が、先ほど受け入れたコンラッドの名残を掬い取る。
「どうしよう、ユーリ」
「な、に……」
 いまだ柔らかい入口の浅い場所を指の腹で引っかかれ、喉が引きつった。
「また、したい」
 ここにいれたいと、指が内側をゆるゆると擽る。
「ぁ、コン、ラッ……」
 片側の膝裏に手をかけられた。強い力で引き上げられ、いよいよバランスをとることが出来なかった身体が更に強く逞しい身体に縋りつく。
「してもいい?」
 熱の篭った問いかけに、おれは何度も頷くしかできなかった。
 
 
 ゆっくり風呂に入るつもりだったのだが、のぼせてしまったユーリを湯船に入れるわけにもいかず、真新しいバスタオルでくるんだ身体を抱き上げた。
「ん……」
 無意識に擦り寄ってくる姿に、つい笑みが漏れる。
「掴まっていてくださいね」
 つかまりやすいように首を寄せてやると、のろのろと持ち上がった腕が首に回された。
 つかまるというよりは添えられている程度の力ではあるが、コンラッドが大切な恋人を落とすはずもなく、もう一度今度は頬にキスをしてゆっくりと寝室へと運んだ。


 遮光性のカーテンを引いた寝室はエアコンをつけていないが他の部屋よりいくぶん涼しい。
 今にも眠ってしまいそうなユーリの身体をベッドへ下ろした。
「ん……」
「うん、眠ってもいいですよ」
 無理をさせてしまった自覚もある。相当つかれているだろうと、額にかかる前髪を分けてやるのだが、首に添えられていた腕が離れることがなかった。
「ユーリ?」
 問いかけても返事はない。
 ただ、微かに強まった力がコンラッドを引き止めた。
 離れるのを嫌がるように、ゆるゆると頭が振られ、水気を含んだ黒髪がシーツの上に散る。
「困ったな」
 彼を潰してしまわないようにベッドへとついた肘で不安定な身体を支えながら、間近の身体を見下ろした。
「あまりかわいいことをして煽らないで」
「……ん」
 火照ったままの頬へと手のひらで触れると、摺り寄せてくる姿がたまらない。
「ベッドでは何もしないつもりだったんですけど」
 薄く開いたままの唇へと己のそれを重ねたコンラッドは、そのまま舌先を挿し入れた。
「……っ、ぁ…」
 上顎の裏の一番ユーリが弱いところを舐めると、小さな声が漏れる。
 煽られるままにあちこちを舐め、奥へと引っ込んでしまった舌を引き出そうとしたところで、コンラッドの首に絡んでいた腕が離れてシーツの上へと落とされた。
「ユーリ?」
 どうしたのかとキスを解けば、目の前には先ほどよりも幼い顔で眠る恋人がいた。
 あとはもう規則正しい寝息が聞こえてくるばかりだ。
「困ったな」
 コンラッドは先ほどと同じ言葉を違う意味で呟いて、苦笑を漏らしながら隣へと寝転んだ。
 しばらく起きないだろう一回り小さな身体を抱きしめて、タオルケットを引き寄せる。
「おやすみ、ユーリ」
 もう少し涼しくなるまで一緒に眠ろうと決め込んで、目を閉じたコンラッドは小さな寝息に呼吸を合わせた。


(2013.08.04)