小ネタ8
目覚めたてのぼんやりとした思考の中、見上げた天井をみてユーリは「ああ」と小さく呟いた。
落ち着いた木目は、本来の自分の部屋ではない。
視界をクリアにするために目を擦ろうと持ち上げた腕が何も身につけていないことに気づいて、ゆっくりと顎を下に向けた。
飛び込んできたのは自身の胸元。いまさらに自分が何も身につけていないこと、それに至った経緯、色々なものが頭を駆け巡る。
「パンツがない」
とにかく服を着ようと上体を起こすが、脱いだはずのものが見つからなかった。
いるべき男も見当たらない。
「おれの着替え……」
仕方ないなと、一枚だけ残されていたシャツを引き寄せ腕を通すと袖から出るのは指先だけだった。
ボタンを一つ二つ留めたところで、部屋のドアが急に開く。
「起きたんですか」
「おかげさまでー。で、おれの着替えどこ?」
「まだ着替えるには早いですよ」
時間の問題ではなく、何も身につけていないこの状況が心もとないのだとユーリは必死に訴えてみたのだが、服を片付けた犯人は緩く首を振るだけだった。
「だって、もったいないじゃないですか」
「意味がわからないよ」
自分はちゃっかりと下だけ身につけているくせに。もしかしたら、いま羽織ったシャツは彼が着るつもりだったのだろうかという考えが浮かんだが、返す必要もないかとすぐに思いなおした。
だって、こちらはなにも服がないのだ。
「もう少し、触れ合っていたいかなって」
一人分の重みが増えてベッドが小さく軋んだ。傍らに座った男が柔らかく笑み、両腕を伸ばして引き寄せにかかる。
膝の上まで連れ去られたユーリは、またぐ形になった足元がこころもとなくて踵でシーツを何度か蹴った。
距離をとろうとした腰は、しっかりと逞しい両腕にガードされて逃げることも叶わない。
「はな、せ」
「どうして?」
鼻先が触れ合いそうな距離で、笑みまじりの瞳が問いかけてくる。
嫌ではないから困るのだ。
だが、そんなこと言えるはずもない。
(2013.08.12)