小ネタ9


 世の中には、家の中では裸で過ごすという人種が存在するらしい。
 それは個人の自由だし、外でしないならば問題はないと思ってはいる。
 最近、こいつも実は裸族なんじゃないかなと思うのは、こういう時だ。
「コンラッド、ちゃんと服を着てこいよ」
 人には着替えろ、髪を拭けとあれこれ気を使うのに、自分のことには無頓着な男は風呂場に消えていくばくも経たないうちに、部屋へと戻ってきた。
 鍛えられた筋肉を見せびらかしているのかと疑いたくなる腰にバスタオル一枚を巻いただけという格好で、だ。
「しかも、まだ濡れてるじゃん」
 先に風呂を済ませて、コンラッドが風呂に行く前に淹れてくれたお茶を飲んでいたおれは、雫が一つ床を濡らしたのをみて立ち上がった。
 おれが両腕を伸ばすのをみて僅かに屈んだコンラッドの頭に、先ほどまで自分がつかっていたタオルを乗せて容赦なくかき混ぜる。
 いつもコンラッドがしてくれるのとは違って、おれのやり方はお世辞にも丁寧とは言えないのに、タオルの下から覗く顔はとても嬉しそうだ。
「ったく、あんたは面倒見がいいのにどうして自分のことには手を抜くんだよ」
 おれが拭きやすいように屈んだはずなのに、湿ったタオルの端が頬に触れたと思ったら、軽く唇が触れ合っていた。
「ユーリのお世話と違って、楽しくないですからね」
「なっ」
 さらりとふざけたことを言う。
「もう自分でやれよ。あと、ちゃんと着ろよ」
 もう知るか、と手を離したらタオルが落ちた。
 それなのにコンラッドが伸ばした手はタオルではなく、おれの腕を掴んで引き寄せた。
 風呂上りの何も身につけていない胸元が近づいて、おれと同じ石鹸の香りが鼻をくすぐる。
「パジャマはあとで着ますよ。だって、すぐに脱ぐでしょう? それにね」
 屈むかわりに、おれを抱き上げることで顔を近づけたコンラッドが耳元で小さく笑った。
「ユーリが意識してくれるかなと」
 とんでもないことを言いながらおれをベッドに浚おうとする男は、さらさら悪癖を直す気はなさそうだった。


(2013.08.12)