小ネタ15


「なんだか楽しそうですね」
「そりゃあね」
 のしかかってきたしなやかな身体に触れることを許されないまま、見上げた先にある美しい人を見つめた。
「久しぶりに仕事も片付いたしさ。肩こりがひどいよ。椅子に座りっぱなしで、身体が固まるかと思った」
「じゃあ、マッサージでもしますか」
 疲れた身体を癒す手伝いになればという提案は、「後で」という言葉であっさり却下されてしまった。
 視線は絡ませたまま、俺の胸元で身体を支えていた彼の手がもぞもぞと動き出す。
 薄いシャツ越しの温かな指先の意図は明確だ。
 久しぶりの触れ合いを望んでいるのは何も彼だけではない。ならばと、彼の腰へまわそうとした腕は、予想に反して彼の手によって阻まれた。
「だーめ」
「どうして?」
「今日はおれがするの」
 目をわずかに細めた彼が、形のよい唇で笑みの形を作った。



 工程を楽しむかのように、時間をかけてシャツのボタンを外された。
 ベッドへと縫いとめられたまま中途半端に肌蹴られただけのシャツの中を無遠慮に彼の手が這い回る。
 馬乗りになって下腹部の上を陣取った彼が、もぞもぞと動く。その下にある俺の状況は伝わっているはずなのだが、どうやらそちらまで触れてくれるつもりは、まだ、ないらしい。
 身動きさえ許されぬ状況と、彼に触れたいという欲求を堪えながら、ことさらゆっくりと深く息を吐き出した。
「んー……久しぶり」
 僅かに覗いた赤い舌が唇を湿らせたのは、無意識だろうか。
 視線を感じたのか、薄く開かれた唇が降ってきた。
「ん……っ」
 間近に感じる吐息が熱い。
 ぼやけそうなほど近くにある漆黒の瞳の中に、明らかな欲を見つけてしまえば、もう堪えられそうになかった。
「わっ……」
「交代です」
 鍛え方が違う。一回り小さな身体を転がすことなど造作もない。
「俺も限界なので」
 囁いてから柔らかな耳たぶを唇で食めば、先ほどまでの大胆さはなりを潜めた。
 組み敷かれたままの彼の、視線を逸らすことで恥ずかしさをやり過ごそうとする仕草は、昔から変わらない。
 大胆さも、初々しさも、どちらもたまらなく愛おしい。
「ユーリ」
 呼びかければ窺うように見上げてくる恋人へ。薄く開かれた唇に触れてから、俺はお返しを開始した。


(2013.10.31)