小ネタ22
最初からこんなところでするつもりではなかった。
ただ、キスをして、服を脱がせて、ベッドへと連れていこうと思っていたはずが、気付けば触れる手をとめることができなくなっていた。
「ぁ、あ、あっ……まっ、て……」
甘い声に混じる制止の声を聞いてあげる余裕はなかった。
散々に捏ねた胸の尖りをきゅっとつまみあげると背中が撓る。
すっかり形を変えた下着の中へと手をしのばせると、彼が腰を引いた。
逃げたかっただけなのだろうが、結果として背後にいるこちらへと腰を押し付ける形となる。その仕草さえも誘われているようで、たまらない。
「もう、こんなになってる」
「言う、なっ、ぁ……」
涙まじりの声もかわいい。
水気を帯びた瞳がみたくて、キスをしたいなとねだれば素直な彼が振り向いてくれた。
「んっ、ぁ…あ、あ…」
「好きだよ、ユーリ」
手の中の熱を扱きながら、唇を触れ合わせる。
角度を変え、何度も何度も甘い唇を啄ばみながら、考えるよりも先に言葉が出ていた。
「ユーリがしてくれるの?」
ベッドに座らせたコンラッドの膝の上へと乗り上げたユーリは、問いかけにびくりと肩を揺らした。
そんなつもりではなかった。いや、どんなつもりだったのかと言われてしまえば困ってしまうのだけれど。
ただ、彼が欲しかっただけなのだ。
「……ん」
逡巡の末にユーリが頷いてしまったのは、見上げてくるコンラッドの視線に期待を感じ取ったからだった。
怯みがちになる自身を奮い立たせるように衣服を脱ぎ捨てたユーリは、下着一枚の姿で恋人の首筋へと腕を絡めた。
いつもは受け入れるばかりの口付けも、今日は積極的だ。
「んっ……っ……」
舌を絡めて吸い上げる慣れない行為の最中に考えるのは、いつもどうされているかということ。
彼の舌がどのようにして口腔内で蠢くのか。どうされた時に気持ちよいのか。
トレースしながらの口付けは、同時にどうやって乱れさせられるのかまで思い出させて知らぬうちに熱を生んだ。
「ぁ、さわんな……で」
してくれるのかと問いながらもコンラッドの手はユーリの身体を這い回っていた。
腰から背中へと背筋に添って薄い肉を撫でたかと思えば、脇を抱えるようにして親指が胸の尖りを押しつぶす。指で捏ねられただけで小さなそこが固く張り詰めるのを感じながら、口付けを解いたユーリが頭を振った。
「どうして?」
「わけ、わかんなくなる、から……」
したいのに、と続く声にコンラッドの銀の虹彩が細められた。
いつもの優しい眼差しとは異なる色を見つけて、ユーリの心臓がひとつ跳ねる。
返事はもらえなかったものの、身体を這いまわる手を止めてもらえたのでユーリはお返しとばかりに恋人の胸元に唇を寄せた。
「気持ちいい?」
「ええ……」
唇で食まれると肌がざわつく。下で舐め上げて吸い上げられれば、身を捩りたくなるほどに背が粟立つ。
見知った感覚を思い出しながら問いかけるけれど、ユーリの髪を撫でるコンラッドにはまだまだ余裕が感じられた。
「あんたも、同じようになればいいのに」
過敏なほどに反応してしまう身体を制御する術もないまま、体温も息もあがって、冷静さを失う感覚。
恥ずかしくて、気持ちよくて、もっと欲しくて、でも逃げ出したくなるような。
「十分、気持ちよくて困ってますよ」
うそつき、と言わせてもらえなかったのはユーリの手をコンラッドが掴んだからだ。
招かれた先は彼の下肢。
衣服の上からでも感じ取ることのできる昂ぶりに、ユーリは目を瞠った。
耳元に寄せられたコンラッドの唇が吐息を漏らす。
「早くあなたの中に入りたい」
直接的な言葉に、真っ赤になったユーリは目の前の肩口に額を押し付けた。
「ユーリがしてくれるんでしたね」
「な、に?」
指の間さえも舐められると気持ちいいなんて知らなかった。
口腔に招かれた指に舌が絡まる。唾液を塗りこめる水音をぼんやりと聞いていたユーリは、コンラッドの意図がわからずに戸惑うばかりだ。
「ユーリが自分でいれてみてください」
ここに、と下着の上から尻の間に触れられた瞬間に理解した。
戸惑うユーリの視線を受け止めるコンラッドは、きっと拒めば許してくれるだろう。
強制ではない。ただ、期待はされていた。そして、自分でするといったのも自身だ。
「……ん」
小さく頷いたユーリは、コンラッドの視線を意識しないようにと強く目を閉じた。
サイドの紐を引くだけで脱ぐことのできる下着を、彼の前でこんな風に脱ぐのは初めてだった。
着替えるためでも、風呂に入るためでもなく、彼を受け入れるため。
「ぅ、ぁ……」
内股が震える。
「ぁ……んっ……」
「力を抜いて。大丈夫だから。ゆっくり呼吸をして」
爪の先を含ませて躊躇うユーリの耳元でコンラッドが囁くのは、いつも彼を受け入れる際にかけられる言葉だ。
励まされながら、尚も強く閉じた目元に涙が滲んだ。
きつく締め付けながらも自ら受け入れたそこは、驚くぐらいに熱かった。
「熱いでしょう?」
「ん……」
指と比べ物にならないぐらいの大きさのものを受け入れているのが信じられないぐらい、心もとない。
身動きとれずに固まるユーリへの手助けか、コンラッドの指が添えられた。
「いつも俺を受け入れてくれる場所です」
「やっ、ぁ、あ……」
頑なに指を締め付けていた入口をコンラッドの指先が撫でた。
動くこともできなかったはずのそこは、先ほどの頑なさが嘘のように僅かに力を込めたコンラッドを受け入れる。
「…ん……」
コンラッドに動かされるようにして、内側を擦った。
どこで感じるのか、どうやって柔らかくしていくのか、身を持って知らされるのが恥ずかしい。
まるで自慰をしているような姿を、彼の視線に晒していることも。
「ぁ……も、や、ぁ、あ……」
泣きながら首を振れば、慰めるように目元に口付けられた。
二本に増やされていたコンラッドの指が抜けでて、ようやくユーリも内側から指を抜くことを許されたのだけれど。
「じゃあ、こっち」
代わりにと握らされたのは、熱くて硬いもの。
「……んっ」
逃げ出したいほどの羞恥心と期待する身体を抱えながら、ユーリは恋人を受け入れるためにゆっくりと腰を持ちあげた。
(2014.04.26)