小ネタ28
「……ぁ」
ゆっくりと切っ先を埋めると、腕に触れていた彼の指先が強張った。
「つらい?」
「ぁ……、ん、っ……」
進めていた腰を止めて、組み敷いた姿を見下ろせば、小さな呼吸を繰り返しながらいとおしいひとが、へいき、と掠れた声で返してくれる。
本当は平気なんかじゃないのに。
涙に濡れた目許へと慰めにキスを送って、彼の優しさに甘えてそのまま深くまで繋がると、どちらともなく小さな吐息が零れた。
馴染むのを待って、ただ抱きしめていた腕の中で彼が身じろいだ。
「……ぁ」
そんな小さな刺激にさえ反応して、しがみ付いてくる彼がいとおしい。
繋がった場所が熱く脈打っていた。
「も、いい……から」
全身を汗ばませながら、へいきだと繰り返してくれる彼の唇に触れるだけのキスをして、確かめるように僅かに腰を引く。
背を撓らせた彼の動きに腰を止めると、涙に濡れた瞳に射抜かれた。
「きもち、い……から……ぁ」
して、とお願いされてしまえば、止められるはずがなかった。
「ぁ、あ……あ……」
絶えずあがる甘い声に、どうしようもなく煽られる。
腹の底からわきあがる衝動に掻き立てられながら、ギリギリでそれを押さえ込む。
「あいしてるよ」
余裕がなくなるのを感じながら囁くと、すき、と返してくれる甘い声が、最後の理性を瓦解させた。
「……ん、ぁ…」
高く掲げられた腰を支える脚が小刻みに震えていた。
唇を開いたら何を口走るかわからなくて、引き寄せた枕に顔を強く押し付けた。
待って、と願ったのは自分で、やさしい恋人はその通りに馴染むのを待ってくれている。
背後から零れる吐息が熱い。肌に触れる指先も。
強張る身体を慰めようと大きな手のひらであちこちを撫でられる。それだけのことにさえ肌が粟立って、無意識に後ろを締め付けてしまえば、息が詰まった。
「ぅ……」
僅かに身じろいだだけで与えられる強い刺激に、目の前がチカチカする。
あつくて、くるしくて、自分が自分でなくなってしまう感覚はひどくおそろしい。だから、待って、とお願いしたのに。
同時に、与えられないことがじれったくて、つい腰を揺らしてしまえばどちらともなく吐息が漏れた。
「ユーリ……」
掠れた声に、思考を乱される。
腰をゆっくりと引かれただけで背が撓る。
「ぁ……あ、あ」
内側から出て行く熱を引き止めるように自ら恋人へと腰を押し付ければ、大きな手に腰を掴まれた。
泣き顔をみせたくなくなくて。
顔を見せて、と言うお願いに頑なに首を振り続けた。
だからだろうか。
「やっ、なん、で……」
感じていた熱が引き抜かれたことに驚きと同時に不安がよぎり、弾かれたように振り向いた。
怒っただろうかという心配は、すぐに塞がった唇に吸い取られて消えた。
条件反射のように唇を開くと、当たり前みたいに入り込んだ舌で口腔内を舐められる。上あごの裏の一番よわい場所を隅々まで暴かれる間に、止まりかけた涙が再び滲んだ。
「んっ、ん……ぁ、コン……」
「これじゃあ顔が見れないから」
唇が離れる間際に囁かれ、あっさりとひっくり返された身体を正面から抱きしめられる。
脚を肩幅に開かされる恥ずかしい体勢を自覚するより先に、求めた熱で一気に貫かれて目の前が白く染まった。
なんでこんなこと。
そう思うのに、逆らえない。
「気持ちよさそうだね」
「あんた、が……ぁ」
してみせて、なんてひどいお願いをした男にとられた手で、自らの下肢に触れた。
両手を動かすたびに、ぐちゅぐちゅといやらしい水音があがる。
ためらいがちだった動きは、滲んだ体液の量が増すにつれてスムーズになった。
「ぁ…あ……あ……」
見られていることが恥ずかしいのに、膨れ上がった熱から手を離すことができない。
それでも、捨てきれない理性がひとりで達することを拒んで僅かに動きを鈍らせるのを見咎められて、やわらかな耳たぶを嵌れると肩が跳ねた。
「っ……さわ、な……」
大きな手に主導権を奪われる。
「ここ、弱いでしょう?」
「やっ……ぁ、あ」
「ほら、ユーリ。いくところ、みせて」
しないでという願いは聞き入れられず、低く甘く囁く声に追い詰められていく。
敏感な先端を指の腹で擦られて、ユーリは堪えきれずに互いの手を白く汚した。
(2014.10.19)