小ネタ29


 狭い浴槽では、どうしたって肌が触れ合う。
 膝の間に抱き込んだ恋人が借りてきた猫のように固まるのを見て、コンラートは笑みを零した。
「もう、出る」
「どうしてです? いつもは長風呂なのに」
 まだ浸かったばかりで百まで数えてさえいないのに。
 立ち上がろうとする身体を抱きしめることで引き止める。腕の中のユーリはますます身体を強張らせるばかりだ。
「だって」
 冷えた肩へと湯をかけるついでに手のひらで撫でれば、水面が大きく波打った。
「お風呂、好きでしょう?」
「好き、だけど」
 いつもは元気な恋人の口がやけに重い。耳が濃く色づくのはのぼせたからか、それとも。
 冷えないように肩から二の腕にかけて湯をかけてやりながら、水を弾く肌を撫でていく。
 ちょっとしたいたずらのつもりだったのだけれど、胸へと凭れさせた背を小さく震わせる様があまりにもかわいいものだから。
「んっ……」
 止まらなくなった手をするりと前へ忍ばせた。薄くあばらの浮いた腹から這い上がった指先が触れるのは心臓の上。
「……ぁ」
 小さな吐息が浴室に響く。
 甘い声をもっと聞きたくて、いたずらでは済ませられなくなりそうだと自覚しながらコンラートは目の前のうなじへと唇を押し付けた。


(2015.01.03)