小ネタ31
「っ、ぁ、あ……」
じれったくてもうやだと泣き出すまで解されたはずなのに、受け入れた熱の容量にユーリの身体が硬直した。
「大丈夫、ですか?」
ぎゅっとシーツを握り締めて、きつく目を閉じた身体を見下ろすコンラッドの問いかける声も苦しげだ。
どうにか先端だけ含ませたところで、動くことも進むこともできぬままに、シーツに沈めた身体を抱き寄せる。そっと、刺激をしないようにと気遣いながら、頬を撫でて髪を梳いて、うんと甘やかすみたいにキスをした。
「くるしい?」
閉じられたままの目許に滲んだ涙を舐めとりながらの問いかけに、水気を多く含んだ漆黒の瞳があらわれた。
「ん……ぁ、コン、ッ……」
「うん。ゆっくり、息をして」
無体なことを強いている。不安げにゆれながら自分だけを映す瞳を見つめる瞬間は、いつもそんな罪悪感に駆られるのだけれど。
「ぁ、んっ……」
「ユーリ……」
浅い呼吸を繰り返す彼の身体を抱きしめると細い腰を撫で、目の前の汗の滲んだ鎖骨を甘く噛む。
ピクンと跳ねた彼の脚の間、少しずつ進んでは止まり、ゆっくりと時間をかけて深くまで繋がる頃には息も絶え絶えで痛ましい。
「ごめんね」
どうしても彼を欲しいと思ってしまう自分を許してください。
言葉にはできないまま、目の前の細い首筋へと顔を埋めた。漏れた息がどうしたって熱くなる。
痛いほど張り詰めた熱はどうしようもないほどに彼を欲して、ともすれば貪ってしまいたくなる衝動を必死になって宥めるのが精一杯だ。
「……ッド」
白くなるほど強くシーツを握っていた指先が、コンラッドの汗の滲んだ背へと触れた。さまよった指先が背中の傷に引っかかる。
「すき」
吐息に混じった消え入りそうな声に、目を瞠る。
「ユーリ」
「……ぁ」
たまらない、と緩く首を振ると、顎から伝い落ちた汗の雫にさえ感じるのか、小さく零れた甘い声にコンラッドはいよいよ自制がきかなくなるのを自覚した。
大きく開かされた脚を、恥ずかしいと感じる余裕もなく、ユーリはきつく目を瞑った。
さっきまで何本もの指を受け入れていた奥が、押し当てられた熱にひくりと震える。
「……ぁ」
塗り込められたオイルでぬめりを帯びた入り口を伺うように、熱を帯びた質量で擦られて、ユーリの太ももがピクリと跳ねた。
「っ、ぁ、あ……」
優しく太ももを撫でてくれた指に力が加わって、ぐっ、と身体の奥を開かされていく。
初めてではないけれど、いまだ慣れない感覚にユーリは目頭を熱くして身体を硬直させた。
「……っん」
コントロールがきかない身体が異物を締め付ける。
「くるしい?」
いつもより低い、普段は聞くことのない声音での問いかけに、ユーリは震える瞼を押し上げた。
滲んだ視界にうつるのは、少しだけ表情を歪めた恋人の顔。
「ん……ぁ、コン、ッ……」
くるしい。
けれど、そんなことは言いたくなくて、名を呼ぼうとした声は震えて途切れた。
「うん」
それでも、返事を返してくれるコンラッドの声に、少しだけ安堵する。
「ゆっくり息をして」
呼吸をままならない自分を労わる優しい腕にシーツへと沈んだ身体を抱きしめられた。
忙しない心臓は落ち着くどころか加速するばかりで、ユーリはますます目許を濡らしながら、どうにか開いた唇から吸い込んだ空気を肺に送り込む。
「ぁ、んっ……」
「ユーリ……」
ほんの些細な刺激にさえ跳ねる身体を、宥めてくれようとする指先にさえ煽られながら、少しずつ深く繋がっていく。
「ごめんね」
身体のなかの一番深いところまで受け入れたことを教えるように、大きな手に腰を撫でられた。
首筋にかかる息が荒く、熱い。
彼だって、くるしいはずなのに。
決してそんなことは口にせず、ただユーリの身体だけを気遣おうとする恋人の背へと、ユーリは震える指先で触れた。
じっとりと滲んだ汗で肌をすべる指の腹が、無数の傷に引っかかる。
くるしいのは、身体の奥に受け入れた熱のせいだけじゃない。
「……ッド」
この行為は、彼に強いられたことではなくて。
求められていることがうれしいのに。
それが、つたわらないことが、くるしい。
どうしようもないほど好きなのに。
「す、き……
言葉を紡ぐ余裕さえない力の入らぬ身体で、大きな背を強く抱いた。忙しない心臓が二つ重なる。
「ユーリ」
目を瞠った恋人の名を呼ぼうとしたユーリの声は、重なった唇に飲み込まれて消えた。
(2015.01.27)