小ネタ33
空気が変わる瞬間っていうのがある。
さっきまでにこにこ笑っておれの話を聞いていた名付け親だったはずなのに。
「……ぁ」
何かの拍子に会話が途切れた一瞬の間にコンラッドの表情が変わったことに気づいて、おれは再び開きかけた口を噤んだ。
銀色の星が散る瞳にじっと見つめられるのが落ち着かなくてせめて自分だけでも視線を逸らそうとしたのだけれど、咎めるように伸びてきた指先が頬に触れた。
少し近づいた距離で見つめられると、いよいよ固まるしかなくなってしまう。
「……コン、ッド」
返事の変わりに、触れていた指先が頬の輪郭をなぞる。
「触れてもいい?」
もう触れてるくせに。
小さな傷の残る親指の腹が薄く開いた唇に触れる。
更に近づいた顔はもう吐息がかかる距離になっていて、おれはいよいよ緊張が抑えきれずにぎゅっと目を閉じた。
「そんな顔をされると、悪いことをしている気分になります」
てっきり、キスをされるんだと思ったのに。
いつまでも触れてこない唇に焦れて瞼を押し上げると、困った顔の彼がいた。
困りたいのは、おれのほうだ。
「悪いことじゃない、だろ」
恋人同士のすることなのに。
ただし経験値が足りない分、いまだ慣れることができずにいるだけで。
もう一度、目を閉じる。瞼の向こうの顔は見なくても簡単に浮かんで、少しだけ恥ずかしい。
早くしてくれと触れる指先を唇で食めば、背中に回った腕に引き寄せられて僅かな距離がなくなっていた。
「コ……コンラッド……」
シャツを脱がせるためにボタンに手をかけた腕を引かれた。
「どうしました?」
たぶん、条件反射のようなものだったのだろう。見つめた先の彼は、はじらいとためらいで薄く開いた唇を震わせている。
「えっと……その……」
「うん」
首を伸ばして、頬へと唇で触れてみる。やわらかな丸みを啄ばむと赤くなった耳朶が見えるものだから、今度はそちらを唇に含んだ。
「ぁ……」
腰にまわした腕で細い身体を抱きしめた。
額を触れ合わせた先の、上目遣いに見つめてくる彼の戸惑う表情にさえ煽られるのだから、我ながら本当に余裕がない。
「する、の?」
「するよ」
最初は触れるだけのキス。それから唇を何度も啄ばんで、空気を求めて開いた隙間に遠慮なく舌を差し入れた。
「んっ……っ」
口の中をかき回す。舌の表面を撫でるとシャツの裾を掴まれた。逃げたがるそれを捕まえて深く絡め取ると、咎めるようにシャツを引かれた。
「っ……ぁ」
待って、と懇願する声を飲み込んで深く口付ける。
組み伏せた身体の下でもじもじとすり合わされる太腿を膝で割ると、待てない理由を知らしめるように後には引けない熱を押し付けた。
(2015.03.14)