小ネタ35


 ずん、と腹の中を満たした熱に、ユーリは小さく喘いだ。
「ぁ…あ……」
 繋がる瞬間はいつだって、くるしい。
 なんでこんなことをしているんだろう。
 つい、そんな弱気な思考が頭をよぎる。
 ぴんと強張った四肢を小刻みに震わせるユーリに出来ることといえば、ただ浅い呼吸をせわしなく繰り返すだけだ。
「大丈夫、ですか?」
 ぜんぜん大丈夫なんかじゃない。
 大きく開かされた股関節は痛いし、腹の中は信じられないほどの圧迫感で、目の奥がチカチカする。
 「爪を立てていいよ」なんて言われた彼の素肌に素直に爪を立てられるほど、指先を自由に動かすことさえかなわなかった。
 泣きごとを言いたいような、泣くところなんてみせたくないような。
 いろいろな感情をせめぎあわせるユーリは、頬を撫でる手に気づいてきつく閉じていた瞼をゆっくりと押し上げた。
「ユーリ……くるしい?」
 くるしいにきまってる。
 そう返そうとした唇が、言葉を紡ぐことなく途切れて消えた。
 目の前には、こんなことになっている原因の恋人。くるしいのかと問いかけておきながら、きつく眉根を寄せた彼の方が、よっぽどくるしそうだ。
 普段の彼とは違う、別の顔。
 頬を上気させながら熱っぽく見つめてくる瞳にあてられて、こちらまで体温が跳ね上がる。
「ぁ、コン、ラッド……」
 名前を呼ぶと、彼は薄く開いた唇を自らの舌で舐めた。
 喉がひりつき、唇が乾く。
 なんでこんなことを、なんて決まっていた。
 ただ、彼が欲しい。引き寄せたくて力を入れた指先が、汗ばんだ大きな背中を滑る。
 キスを、とねだった声が聞こえただろうか。互いの乾いた唇を潤すように、舌先を絡めれば腰の奥がじんと痺れた。


「も、いや、だ……ぁ……」
 いやらしい水音が耳から離れない。それから、自分の甘すぎる声も。
 泣き言を言いながら、腹の前にある頭を押そうとするのだけれど、指先に力が入らなかった。
「ん……きもち、いい、でしょう?」
 自らの発言を証明するように、コンラッドが舌先でくすぐると、くちゅりと濡れた音がする。
 熱く膨らんだ熱を口の中に含まれて、舐められて、甘噛みされながらの問いかけに、ユーリはいやいやと頭を振った。
 きもちいい。きもちよすぎるから、こまるのだ。
 ぽたりと零れ落ちた雫が涙なのか汗なのか、自分でもわからない。
「や、だ……ぁ、あ、あ……」
 もう、限界なのに。
 ガクガクと震える膝をなでられた。それにさえも感じて、腰が跳ねる。
「わら、う、な……っ」
 喉の奥で彼が笑う。その振動にさえ、追い上げられる。
「も、や……でる、からっ……ぁ」
「だして、いいから」
 いきたい。身体の中にわだかまる熱を吐き出してしまいたいのに、追い詰めるばかりで離してくれない恋人の髪をかき混ぜながら、どうにかして引こうとした腰を掴まれた。
「や、やぁ……ぁ、あ」
 深いところまで呑み込まれ、強く吸い上げられて、腰が震える。
 きゅっと閉じた目の奥が白く弾けて、ユーリは堪えきれずに恋人の口の中へと感じた証を放っていた。


 ぎゅうっと抱きついたユーリの頬へ、コンラッドは頬を摺り寄せた。
「ぁ……」
 甘えるようなユーリのそれを、くるしいからだと受け取ったのだろうか。
 先ほどから、コンラッドは浅いところで繋がったまま、伺うようにゆるく腰を揺するばかりだ。
「それ、や…ぁ……」
 ゆっくりとした抽挿は、たしかにそれほど苦しくはないけれど、逆に与えられる快楽もすくなくてもどかしい。
 擦られた入り口よりも、もっと奥がざわめいているのを感じて、ユーリは目許に涙を滲ませた。
「んっ……」
 縋るように見つめた先の恋人はやさしすぎて、じれったくなるほどの我慢強さでそれ以上を与えてくれない。
 もっと、してほしいのに。
「こん、らっど」
 違うのだと、たくましい首筋へと腕を絡めて引き寄せた。
 浅い呼吸の中で喘ぎながら、彼の腰を大腿で挟んで自らの腰を揺らしてみせる。
「……もっと、して」
 消え入りそうな声でねだれば、耳元で恋人が息を詰めたのがわかった。
 あさましかっただろうか。そんな心配は、次に与えられた深い口付けによって、すぐに霧散した。


(2015.04.22)