小ネタ36
深く穿った身体がシーツに沈むのを許さずに、コンラッドは腰を引き寄せた。
「ぁ、あ、あ」
揺する度に甘い声を零すユーリの中が、熱くてやわらかくコンラッドを締め付ける。
普段はただ笑っていてほしいと願うばかりの恋人が、ベッドの上で見せる涙は痛みからではないとわかっているからだろうか、もっと見たくてコンラッドはつい加減を忘れがちになる。
「きもち、いい?」
問いかけたのは羞恥心を煽るためだけではない。ただ、彼の口から聞きたくて。
「ん……ぁ、い、い」
ぽろぽろと涙を零す彼に、本当に?と問いかけながらコンラッドは背後から覆いかぶさるように身体を倒した。
角度の変わった刺激に背を撓らせる可愛くて仕方ない恋人を無理な体勢で振り向かせる。
涙に濡れた瞳に、震える唇に煽られながら、コンラッドは艶を増した唇へと誘われるままに口付けた。
腕の中で震える身体をこれ以上は刺激せぬように、コンラッドはそっと膝の上で抱き寄せた。
肩口に掛かる吐息がひどく熱い。
「ユーリ、つらい?」
息も絶え絶えにただしがみ付く年下の恋人は声を発することさえできぬようで、コンラッドの問いにただ腰に巻きつけた大腿を震わせるばかりだ。
くるしくないはずがない。
けれど拒絶するでもなく縋りつくように背へと回された腕にたまらなく煽られて、コンラッドは喉を鳴らした。
そういうつもりで部屋を訪ねたとはいえ、羞恥心を感じないわけではなくて、ユーリは灯りを消して欲しいとお願いをしてから恋人に背を向けた。
年上の恋人が燭台の灯りを消して傍らに戻ってくる間に、身に着けていたシャツのボタンに手をかける。緊張をみせる指先はぎこちなく自分でももどかしくなるほどスムーズではないけれど、恋人の手にゆだねるのも恥ずかしいから。
ひとつ、ふたつ。
上から外す間に、静かな足音が背後へと戻ってきて背が震えた。
みっつ、よっつ。
ベッドの脇の小さな灯りのみが残った部屋の中、ゆらりと揺れる炎がつくる影は二人でひとつ。
視線を感じるうなじがちりちりする。
ますます指先の動きが鈍くなる中で、ふいに首筋をなでられたユーリは身体を強張らせた。
「ぅ、あ……」
首筋から肩にかけてすべる指先が、ボタンの外れたシャツを落としにかかる。
「まって、ま、だ……っ」
腕のあたりでわだかまるシャツの上から触れられるだけで、肌が粟立つ。
待てない、と口に出されたわけではないけれど、そうっと項に触れた唇の温度は言葉以上に雄弁で、ユーリはつい胸元を掻き合わせてぎゅうっと握った。
ふ、と息を吐き出すことで身体の中にわだかまる熱を逃がそうと試みるのだがあまり効果はなく、コンラッドは口許を歪めた。
なるべく意識をしないように努めていた下腹部は張り詰めて、痛いほどだ。
けれど、そちらよりも重要なのは、いま目の前にいる彼を気持ちよくすることだけで、コンラッドは先ほどから指を含ませていた粘膜をゆっくりとかき混ぜた。
「ぁ、や……」
びくり、びくりと震える腰を宥めるように撫でては、奥へと指を差し入れる。
指に絡ませた潤滑剤の助けを借りて固く閉ざされたそこが少しずつ綻んでいく様は、そのまま少しずつ自分を受け入れようとしてくれているということで、コンラッドをひどく喜ばせた。
「コン、ラッド……」
いつもより甘い声に誘われて視線を上げれば、溢れそうな水の膜が張られた真っ黒な瞳と目があった。
とろとろと透明な体液を滲ませて震える性器は随分ほったらかしのままだった。触れて欲しいのかと手を伸ばすと、身じろぐことで違うのだと訴えられる。
「ユーリ?」
「あ、ちが、ぁ……」
やわやわと指を締め付けるように粘膜がざわめいた。
顔を真っ赤にした彼の表情だけで、コンラッドの体温がまた上がる。
「うん、つらい?」
ひどいことをしている自覚はある。だからせめて安心させてやりたいと思いながらも、もっと乱したいという欲求も尽きることはなくて、こめかみから伝い落ちる汗を感じながらもう上手く笑えているのかさえ分からない。
「ぁ…・・・そ、じゃなく、て……っ、ぁ」
身じろいだ拍子にあらぬところを指が掠めたのだろう。高い声を上げた彼が、自分の声に驚いたように目を見開いた。
もうやだ、と小さく呟く声に戸惑ったのは僅かな間で。
「……もう、して」
消え入りそうな声でねだる言葉に、これまでの気遣いなど忘れて理性がやききれるのを感じた。
「あ、あ……」
体の奥を暴くリズムは、ユーリを気遣ってかひどくゆったりで。
けれど身の内に含んだ質量は熱く大きく、敏感な場所を確実に擦ってはユーリの身体を震えさせた。
塗り込められた香油と、コンラッドの体液で潤されたなかが、腰を揺らされるたびに卑猥な音を立てては羞恥心を煽る。
何より恥ずかしいと感じるのは、それが気持ちよくて、だんだんと何も考えられなくなっていく自分自身の変化だ。
「はぁ、あっ、んんっ……」
「かわいい、ユーリ」
かすれた声のささやきに、いつものように不満を返す余裕もなかった。
こどもの、しかもおとこである自分を相手に、おとなな彼が欲情してくれている、という事実だけでどうしようもなく頭の中が沸騰しそうになる。
「ん……、コン、ラッド……」
深く穿たれながらしがみ付いた身体を、それ以上の強さで抱き返されて涙腺が刺激された。
「ぁ、あ、あ……」
ぎゅうっとしめつけた熱が、なかで跳ねる。
荒い息が頬に触れるのにさえ感じて、細く甘い声を零しながら、ユーリはますます恋人へと縋りつくようにしがみ付いた。
(2015.05.31)