小ネタ38
もっと深く繋がりたくて、手をかけていた膝裏をぐっと押した。
「んっ、ぁ、あっ」
大きく開いたままのユーリの脚が、宙に揺れる。
胸に膝頭がつくような体勢は苦しそうではあるけれど、零れる声は甘さを含んでいて、コンラートを咎めることはなかった。
「ユー、リ」
シーツに深く沈めた恋人の首筋に鼻先を押し付けて、名前を呼んだ。
先ほどからずっと、両腕で隠されてしまったままの顔を見せて欲しいのに、何度呼びかけても頑なに首を振られるばかりだ。
「ねぇ、ユーリ」
「ぁ、あ、あっ……やっ」
「顔を見せて」
水の膜でうるんだ瞳が見たい。甘い声を零しながら震える唇も。あかくいろづいた頬も。
感じて、きもちいいのだと教えてくれる彼を見せて、と甘えるように囁くのだけれど、ますます腕の力は強まるばかりだ。
だから、コンラート別のお願いを口にした。
「キス、したいな」
先ほどまでの激しいものとは違う、ゆるく腰を揺らしながら彼の顔を隠す腕に口付けを落とした。
繰り返し囁いて、おねがい、と請えば少しだけ頑なな腕の力を弱めてくれるから。
「やっ、まっ、て……ぁ」
強引につかんだ腕をシーツに縫いとめれば、現れたのはしっとりと潤んだ瞳だった。
大きく見開かれたそこから今にも零れ落ちそうな涙を唇で拭う。塩気を含んだそれさえ、甘く感じて、コンラートは腹の奥が熱を持つのを感じた。
最初は違和感しかなかったのに。
「ん、んっ、ぁ……」
長い指がからだの中で蠢く。浅いところで抜き差しされていたそれは、気づけば深いところで大胆に動き回るようになっていて、ユーリは目の前の首筋にしがみつきながら身体を震わせた。
逃げたいのか、もっと欲しいのか自分でもわからない。
ユーリが腰を浮かせた分だけ、指は深いところまで入り込む。そして、なかを弄られるたびに、くちゅくちゅと響くいやらしい音が、ユーリにはたまらなく恥ずかしかった。
彼の身体を跨ぐようにして立てた膝が震えていた。全身が汗ばんで、ひどく熱い。
「コン、ラッド……ぁ」
ふるえる声での呼びかけに、「ん?」と短く返すだけの恋人は、ちょっと意地悪に感じてユーリはわずかに濡れた睫を奮わせた。
「も、やだ……ぁ、ゃ……」
「いや?」
身体の中にある行き場のない熱をどうにかして欲しい。さっきから、ずっと決定的な刺激がないままだ。
中途半端な刺激は度がすぎれば苦しくて、さわってほしい場所へと誘導するように腰を揺らせば逃げられる。
「きもちよくない?」
「い、けど……やだ」
甘えるように首筋に鼻先をうずめた。こうしないと繋がれないのは分かっているのだけれど、どうしても自分ばかりというのが嫌なのだ。
自分ばかり、きもちよくて。自分ばかり、彼が欲しいみたいで。
「もう、してほしい」
消え入りそうな声で囁いて、目の前の少し汗の浮いた肩に舌先で触れてみた。
少し塩辛いそれが不思議と嫌じゃない。彼も汗をかくのだなと、当たり前のことにユーリが気づけたのはいつの間にか中を弄る指の動きが止まっていたからだ。
汗の味がしなくなるまで、何度もそこへと舌を這わせた。
「ん、ぁ……」
急に指が引き抜かれたと思ったら、ベッドの上に倒された。
「あんまり煽らないでください」
見上げた先には目を眇めた恋人のかお。少し怒っているようにも見えなくもないその表情のなか、瞳の奥に孕んだ熱に気づいて、ユーリは小さく身体を震わせた。
(2015.10.09)