小ネタ40


 付き合う前から、キスは時々されていた。
 髪や、瞼や、頬。親が子供にするみたいに親愛を示されているだけだと思いながらも、ひどく動揺するのを止められなくて、否応なく彼が好きなのだと自覚させられた。
 いつか−−いつか恋人になれたならば、あの唇が自分の唇に触れてくれるのだろうか、なんて考えたのだけれど。
「ん、んっ……」
 彼の薄い唇が、肌に触れた。耳の裏側から首筋、鎖骨へとたどりながら、少しずつ肌を啄ばんでいく。
 彼と恋人と呼べる関係になって、唇に触れるだけが恋人のキスではないのだと初めて知った。あまり肉をついていない場所は弱いのだということも。
「……ッ、ン」
 軽く触れたかと思えば、啄ばまれる。時折吸われて、ねっとりと舐められて、そのたびに身体がひくひくと震えた。腰の奥のむずむずとした感覚を逃がしたくてすり合わせようとした膝は、大きな手に割られて恋人の身体をはさみこむことになった。
「コン、ラッ……」
「うん?」
 少しずつ降りてきた唇が太股の内側、柔らかい部分へと押し当てられる。
 脚の間が、触れて欲しそうに震えるのに気づいた恋人の手が、ゆるく勃ちあがった熱を握った。
「きもちいい?」
「ぁ、いい……ッ」
 ひくん、と一段と大きく身体が跳ねる。
 気持ちいいのに、違う、気持ちよすぎるから無意識に逃げようとしてしまった腰を、捕まえるように抱きしめられた。
 どんどんと追い詰められたように甘くなる唇を、自分の手で塞いだ。そうでもしないと、何かとんでもないことを言ってしまいそうで。
「ぁ、ぁ……」
 ちゅ、ちゅ、と唇が脚の付け根に触れていた。少しずつ、中心へと近づくそれに、期待してしまうのを止められない。
「やっ……ぁ、あ……」
 期待を裏切らない恋人の唇が、蜜を溢れさせた先端へと優しく口付けを落とした瞬間、口を覆った手の隙間から零れてしまう声をこらえることができなかった。


(2015.11.16)