小ネタ41
新婚さんパロ
どうしても嫌なら無理にとは言わないですが、と言いながらも覗うように見つめてくる相手に、折れたのはユーリの方だったのだけれど。
「ちょっと、まってって」
こんなの、聞いていない。
ユーリは焦りながら、キッチンカウンターの上に乗せた身体を身じろがせた。
ユーリの身体へと覆いかぶさるようにして剥き出しの背中に口付けを落とすのは、コンラッドだ。先ほど、「ご飯を作る」と言ったユーリを笑顔でキッチンに送り出した人であり、ユーリの旦那様であり、裸のままエプロンを身に着けて欲しいと言い出した人でもある。
ふりふりひらひらではなくていい。下着だってつけていてもいい。ユーリが嫌ならしなくていい。
そうまで言われたら、なんだか断りづらくなってしまった。
覗う表情から、して欲しいという気持ちがしっかり伝わってしまったから。なんでこんなことと思いながらも、よろこんでくれるならいいかなと思うぐらいには、彼が好きだから。
なんたって、新婚なのだ。
ただそこから先については何も考えていなかった。
「ぁ、やだっ」
肌にぴったりと張り付いた黒い下着の肌触りを確かめるみたいに、大きな手が丸みを撫でたかと思うと、肌との隙間に指が差し入れられた。
「かわいい」
肩甲骨のあたりに、口付けが落ちた。項にかかるコンラッドの前髪がくすぐったい。
「ちょっと、コンラッド。おれ、ごはん作るって」
「うん、ご飯は後で俺が作りますから」
「後でじゃなくて、いま。っ、ん」
引っ張るだけで簡単に解けてしまう下着の紐を、コンラッドは引かなかった。
そのかわり下着に引っ掛けた指をそうっと下へと下げていく。隠れていたはずの肌が外気に触れる感覚に、ユーリは大きく頭を振った。
「今はユーリが食べたいな」
なにを馬鹿なことを言っているのか。そう思うのに、今の自分の状況をみれば、冗談とも思えない。
逃げようにも、キッチンカウンターとコンラッドに挟まれた身体はおもうように動かない。そうでなくても、やさしく触れてくるこの手に弱いのだ。
「ユーリ」
名前と共に零れた吐息は熱っぽい。下着を中途半端におろした手が、脚の付け根に近い柔らかな肌をくすぐるように撫でていく。
「嫌?」
背中から離れた唇が、ユーリの耳のやわらかな部分を食みながら尋ねてくる。
こういうところがずるいと思う。
さっきエプロンをつけて欲しいといった時と同じだ。期待しているくせに、それでも、ユーリが嫌だと言ったら引くのだろう。
「ごはん、つくれよっ」
「はい」
なんでこんなこと、そう思うのに。ほだされてしまうのは、彼が好きだから。
なんたって、新婚なのだ。
腰からお尻にかけての隠すもののない肌を撫でまわされた。
「も、やだ」
キッチンカウンターに縋りつきながら嫌だと身を捩ったユーリに、コンラッドは戯れのように肩や背中に口付けを落とすばかりだ。
昼間から、こんな場所でこんな格好をして。
そう考えれば、ダメだと思うのに、大きな手に触れられてしまえば、膝から力が抜けていく。
「んっ……ぁ」
立っていられずに床の上へとへたり込んだユーリは、こんな風にした男を涙目のままにらみつけた。
「ばか、へんたいっ」
「ユーリ限定でね」
信じられないと怒るユーリとは対照的に、言われたコンラッドの方は目を細めて笑うばかりだ。
さらには、かわいい、と囁いて、膝を着くと上気したユーリの頬を撫でた。
「さわんな」
頬の丸みを撫でられただけで、むき出しの肩が小さく揺れる。吐き出した息が熱いのが、自分でもよくわかった。
「触らなくても、平気?」
そこ、とコンラッドが視線で示した先は、エプロンの下。薄い布地が不自然に盛り上がりをみせている。
「……っ!」
視線を遮るようにエプロンを握り締めたユーリだったのだが。
「みせて」
続くコンラッドの言葉に目を瞠った。
(2016.05.07)