小ネタ42


 膝の上に乗せた恋人の頬に口付けたコンラートは、背中の中心に沿って肌を撫でると、そのまま小さな二つの丸みの間へと指先を忍ばせた。
「うっ」
 途端に、浅い呼吸を繰り返していたユーリの唇から漏れたのは、小さなうめき声だ。
 コンラートの首へと回された腕が、抱きつくというよりはしがみつくといった方が正しいほど強い力に変わる。
 ガチガチに身体をこわばらせたまま肩口に顔を埋めユーリの状況など、みなくたってコンラートにはわかる。
 きっと強く目を閉じて、いまにも泣きそうになっているはずだ。
 それでも、「嫌だ」といわないのは彼の意地だろうか。
 「しよう」と言い出したのがユーリなら、コンラートをベッドに引っぱり込んだのも、自らの服を脱ぎ捨てたのもユーリの方だったから。
「やっぱり、やめましょう?」
 嫌だと言えない彼のかわりに、コンラートの方から提案をした。
 顔をあげないまま、肩口の頭が左右に揺れて、嫌だと主張する。
 引き剥がされまいとますます密着した二人の間で、互いの熱が擦れあった。
「ユーリ」
 さっきまで散々に触れたユーリのそこが、コンラートの指先が小さな窄まりへと触れた途端に少しだけ怖気づいた。
 対照的に、痛いほどに張り詰めたコンラートの状況は隠し様もないのだけれど、無理を通したくない。
「……まだ、待てますから」
 彼が大切だからこそ、いつまででも待つつもりだった。抱き合うだけが恋人じゃない。
 ね? と、あやすように囁くと、今度ははっきり「嫌だ」と返された。
「おれが、待ちたくない。あんたを待たせたくもない」
 顔をあげたユーリが、コンラートを見た。黒くてまあるい瞳がうっすらと濡れて、宝石のようだ。
「怖いけど、したい。するのが嫌なんじゃないんだ。ただ、したことがないから怖いだけで」
 やっぱり泣きそうになっていたくせに。
「ですがーー」
「怖いからって先延ばしにしたって、怖くなくなるとは限らないじゃないか。だから、したい」
 ためらうコンラートを遮って、続きをしろと、ユーリが誘う。
 止めるべきだと理性が告げる。けれど、と理性ではない部分が腕の中の身体を離そうとしない。
 怖がらせないなんて無理だ。どれだけ丁寧に触れても、くるしいかもしれない。
「大切にします」
 唯一、約束できる言葉を告げれば、ユーリはぎこちないながらも「よろしくお願いします」と笑った。


(2016.05.07)