自覚


もう少しこのままで』のオマケ。


 脳筋族かつ健康優良児なこのおれが、まさかの体調不良。
 理由:寝不足。





 ふらふらしながらもロードワークに出かけるために着替えようとしたら、コンラッドに有無を言わせない勢いでベッドに押し戻された。
「顔が赤いですね」
「だ、だいじょうぶ、だからっ!」
 眉根を寄せたコンラッドが顔を近づけてくる。熱を測ろうとしてくれてるのはわかるけど、今のおれにそれはちょっと厳しい。
 シーツを引き寄せて頭から被ることで、火照る顔を隠して、爆発しそうになっている心臓をなんとか守った。
「ぜんぜん、風邪とかじゃないから!ちょっと寝たら、治るから!!」
「ギーゼラ、呼びましょうか」
「いらないっ!」
 少しの沈黙の後に、わかりました、という返事が聞こえた。
 途端に、心配してくれているのに今の態度はなかったかなと後悔の念が押し寄せてくる。
「ごめん、本当に大丈夫なんだ。少し横になったら治るから」
「じゃあ、グウェンに執務は午後からにしてもらうように伝えてきますから、ゆっくり身体を休めてくださいね」
 シーツ越しに、ぽふり、と頭を撫でる感触に大きく心臓が跳ねる。
「うん」
 一人残された部屋で、おれは盛大に溜息を吐いた。

 昨夜、コンラッドの部屋に泊めてもらった。
 修学旅行みたいだな、なんて笑いながら話して、二人で寝るにはちょっと狭いベッドで一緒に横になって。
 その…あれだ……。
『宿代、なんて言ったら怒られるかな』
「……っ!」
 覚醒しきらない意識の中で聞こえてきた言葉と、柔らかな感触を思い出してしまい、おれは声にならない叫び声をあげた。
 確かに、あれは、夢ではなかったと思う。
 固まって動けないおれを眠っていると思ったのか、起きていると気づいてて知らない振りをしているのかわからない。
 宿代って、なんだ。
 頬が熱い。
 男同士だとか、そういうことよりも、ただ単純に「なんで」という疑問ばかりが頭に浮かぶ。
 落ち着け、おれ。冷静になれ、おれ。

 一緒に眠るのは、親子や友達なら、ありえる。
 抱きしめられるのも、たぶん、ありえる。
 キスは、ない、よな。

 挨拶で頬にとかは海外ドラマなんかで見るけれど、少なくとも唇にするのは恋人だろう。
 でも、おれとコンラッドはそんなんじゃない。
 そんなんじゃないけど、コンラッドはおれにキスしたわけで。
 なに、もしかしておれのこと好きなの?
 考えたら鼓動が早くなった。だから、落ち着けよ、おれ。普通、ありえない、だろ。
 それとも起きてるって知っててからかった?
 想像しただけで、ショックを受けていることに気づいて、驚いた。
 これじゃ、まるでおれがコンラッドのこと好きみたいじゃないか。
「うぅ〜」
 シーツの中で頭を抱えて、唸った。
 もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「起きてたんですか?」
「……!」
 何時の間にか戻ってきたんだか。声をかけられて、おれは固まった。
 どうして、あんなことしたんだ。
 考えたって答えは出ない。第一、考えるのは苦手なんだ。
「あ…、あのさ。コンラッド…」
「はい?」
 ええい、ままよ!
 聞くのは早いと結論付けて、覚悟を決めるとシーツから顔を出した。


(2009.11.04)