2013年クリスマス


2012年クリスマス》と《続2012年クリスマス》の続き



 今年もこの季節がやってきた。
 クリスマスソングもモミの木もないけれど、年の瀬で活気付いた市場の雰囲気は少しだけ地球を思い出す。



 人ごみを縫うようにして歩いていた。
「今度はあっちに行ってみよう」
 コンラートの手を引きながら店を回るユーリの表情は真剣そのものだ。休むことなく視線と手足を動かして、忙しいことこのうえない。
「はい」
 対するコンラートは言われるまま、連れられるまま。
 時折、人ごみを避けきれぬユーリの手を引いてぶつからぬように助ける以外は特に主張もなく、にこにこ笑いながら後に続く。
 どうしても思いつかなかったコンラートへのクリスマスプレゼントを買うために、去年もこうして二人で街を回った。
 これはどうか、あれはどうかとユーリが尋ねる度に、彼が返すのは「良いですね」という笑顔だけ。決して適当なわけではなく、彼は本当に喜んでしまうから、ユーリは困るのだ。
 一番喜ぶものをあげたい。
 けれど、その一番が分からない。
 だから「一番」を探すため、約束どおり今年もまた二人で街に出た。



 一日中、あちこち回ってようやく帰り着いた城の自室で、ユーリは大きくため息をついた。
 さすがに歩き疲れて足が重い。
 温かい部屋の中、なんとかコートだけは脱いだのだが、着替える気力はもはやなかった。ソファに深く身体を沈めて天井を仰ぐと、真上から疲れを感じさせないコンラートの顔が覗き込んでくる。
「お疲れ様です。今日はありがとうございました」
 首に巻いたままだったマフラーをユーリから奪いながら、彼が浮かべるのは市場を回っていた昼間と変わりない笑顔だ。
 マフラーに続いて、手袋が。さらに跪いて足元のブーツまで脱がせてくれようとする護衛の頭を見ながら、ユーリは二度目のため息を漏らした。
「あんたってさ、本当に欲がないよな」
「そんなことないですよ」
 結局、今年も去年と変わらなかった。
 朝早くから張り切って出かけて丸一日かけたというのに「これだ」というものが見つからないまま、時間ばかり過ぎてしまった。それでも何とか細工の美しい帯剣用のベルトに落ち着いたのだが、ユーリとしては負けた気分だ。
「そんなことあるんだよ。ったく、もっとあんたが喜ぶものが見つかればよかったのに」
「喜んでますよ。十分過ぎるほどのプレゼントをいただきました」
 ブーツのかわりに部屋履きを履かされた。ふかふかのスリッパが、疲れた足を柔らかく包み込む。
 後でマッサージをしましょうねと言い置いて、立ち上がった彼は今日買ってきた荷物の整理を始めた。
 たくさんの荷物の中身の半分以上はユーリのものだ。コンラートの買い物のはずが、気付かないうちにあれこれと彼によって購入されていた。
 これでは、誰のために出かけたのかわからない。
「……ったく」
 人の気もしらないで、と怒りたいのはやまやまなのだが、ユーリ自身も楽しんでしまったのだから強く彼を非難することはできなかった。
 それに、てきぱきと荷物を片付けるコンラートの背を見ただけで、彼が今にも鼻歌を歌いだしそうなほど機嫌が良いことが窺えるから、まあいいか、とユーリは考えるのを放棄する。
「また来年、リベンジだな」
 また来年。
 去年と同じ約束を繰り返す。
 きっとまた来年もこうして彼のプレゼント探しに苦労するのだろう。そんな未来が容易く浮かんで、ユーリは口許を綻ばせた。
 たぶんそれは、とても楽しいことだから。


(2013.12.25)