第2.5話


 コンコン。
 控えめに窓を叩く音と、続く自分の名を呼ぶ穏やかな声に、ユーリは寝転がっていたベッドから起き上がり、窓とカーテンを開けた。
「こんばんは、ユーリ」
「こんばんは、コンラッド」
 最初は危ないと叱り付けていた窓を伝っての訪問も、すっかり慣れてしまい、当たり前となっていた。
 挨拶も変らない。
 ただ、経過した年月の分だけ、小さかった幼馴染の身体は大きくなり、反比例するように声が低くなった。
「映画見ました?」
「見てない」
「それは残念ですね」
 パジャマを着て枕を持つ姿は以前のように幼くはない。身体だけは大きくなって、いつしかユーリを見下ろすようになったコンラッドが浮かべているのは、笑顔。
「ホントに怖がってんの?」
 つい疑いたくなってしまうのだが、いつもコンラッドは尤もらしく頷いてみせるのだ。
「ええ、怖いですって。ユーリの部屋に来てしまうぐらいに」
 今も昔も変らない。
 ユーリはこの年下の幼馴染に弱くて、そう言われてしまえばそれ以上疑うことが出来ない。
「仕方ないな」
 二人でベッドにもぐりこむ。
 男二人、気を抜けば落ちてしまうからと当たり前のように腕を伸ばしてくる幼馴染の胸は広くて、抱きつかれているだけのはずなのに、抱きしめられているような錯覚に陥る。
「ったく、いつまでたっても子供だな」
「ユーリが大好きですからね」
「はいはい。おれも好きだよ、コンラッド」
 ユーリが髪をかき混ぜるようにして撫でてやると、嬉しそうに笑う。
 その表情が言葉どおり好きだと告げてくるようで、嬉しさと同時に居心地が悪くなってしまうのは何故なのか。
「おまじないはしてくれないんですか?」
「ばーか。もうそんな歳じゃないだろ」
「じゃあ、俺がしますね」
 逃げようともがくがしっかりホールドされている。わざとなんじゃないかというほどに音を立てて、頬に唇が触れてくる。
「おやすみなさい、ユーリ」
「さっさと寝ちまえ」

 子供のくせに。
 柔らかな感触が触れた頬が熱くて、ユーリは何度もそこを掌で擦った。


(2009.11.26〜2010.01.07 WebClap)