2.プロポーズ


 結局、渋谷家の家訓「母には絶対服従」に則り、俺たちの結婚は認められた。
 結婚後も高校にはちゃんと通って卒業すること、盆や正月には帰省すること等の約束事はさせられたけれど、それは些細な問題だ。
 自分が嫁に行くのか!?というほどウキウキ浮かれたお袋に少し危機感を感じつつも、結婚の準備はトントン拍子に進んでいった。
 今日は式場の見学。
 お袋は一人でワーキャー言いながらチャペルのあちこちを見て回っている。俺は、そのテンションについていけなくて、長椅子に腰を下ろしていた。
 なんというか、実は実感が沸いてない。

 祭壇の奥にはステンドグラス。太陽の光を通して綺麗に輝いている。
「ユーリ?」
 ぼんやりと眺めていたら、名前を呼ばれた。
「んー?」
 隣に腰を下ろしたのは、俺の婚約者。
「お疲れですか?」
「そんなことないよ」
 心配そうに顔を覗き込まれて、気恥ずかしい。
 昔は一緒に風呂も入ったし、一組の布団で寝たし、今でも時折ふざけて抱きついたりするけれど、婚約してからはそういうのとは明らかに違う雰囲気で距離が近くなった。
「そうですか?」
 納得してない様子でまだ心配顔をしているから、俺は精一杯笑ってみせた。
 急に、コンラッドの表情が真面目なものになる。
「順番が逆になってしまいましたが、俺はユーリを愛しています。一生大切にしますから、俺と結婚してください」
 こんな表情を見るのは二度目だ。
 先日の夕食の席を思い出す。
「俺でいい?」
 大人な表情を見せられて、嬉しい反面戸惑った。
「あなたがいいんです」
 不安を吹き飛ばして有り余る、はっきりとした返事が背中を押してくれる。
「俺、ちゃんと言ってなかった気がする。あんたが好きだよ、コンラッド。だから、えっと…俺のほうこそ、結婚してください」
 生まれてこのかた彼女なんてできたことがない。初めての告白が、プロポーズとは我ながら驚きだ。
 窺い見たコンラッドは、僅かに目を見開いた後で顔を隠すように片手で口元を覆った。顔が赤いのは、たぶん気のせいじゃない、と思う。
 こんな表情初めて見た。
「ありがとう…ございます…」
 コンラッドが、柔らかく笑った。俺の大好きな笑顔。
 結婚式の予告のように、俺たちは初めてキスをした。

 もうすぐ俺たち、結婚します。


2009.08.28
結婚までの道のり、その2
きっと、母上様はこっそり見守りながら、拳を握り締めているはず!