6.朝の出来事



 カーテンの隙間から漏れる明るい光に促されて目が覚めた。
「んー…」
 目覚まし鳴ったっけ?と、ぼんやり考えて、今日が休日であることを思い出した。
 眩しさに目を閉じる。
 それでも分かるほどの光に、もうすでにそれなりの時間だと理解した。
 朝メシ作らなきゃ…。
 習慣として考えるけれど、身体が動かない。
「えーっと…」
 横から聞こえてくるのは、規則正しい寝息。
 そして先ほどから違和感を感じる布団の中を覗くと、自分の身体をしっかりとホールドしている両腕が見えた。
 学生の自分とは違い、毎日働いているコンラッドを気遣えば、休日ぐらいゆっくりさせてあげたいと思う。なんでもソツなくこなすこの男は、たぶん一緒に起きたら朝食を作ってくれようとする。
「起きるなよ?」
 祈りながら、自分を抱きこんでいる腕を離そうとするが、びくともしない。それどころか、先ほどよりも少しだけ力が強くなった気がするのは気のせいか。
「コンラッド〜」
 俺は抱き枕ですか。
 隣の人を窺い見る。
 眠っている、よな?
 昨夜は、翌日が休日ということもあり遅くまでエッチして、一緒にシャワーを浴びて。
 人にはちゃんとパジャマを着せるくせに、コンラッド自身はパジャマの下しか身につけていない。布団からはみ出た肩に、見覚えのある歯形を見つけてしまい、慌てて目を逸らした。
 これ以上ここにいると色々思い出して危険だ。
「ちょっとこの腕、はずしてくれませんかね」
「ダメです」
 相手は寝ている。返事など期待していなかったのに、はっきりとした返答に面食らった。
「起きてるのかよ!」
 いつからなのか。
 ならば遠慮はいらないとばかりに、多少強引に腕を剥がそうとするが、力で勝てず。逃げようとすればするほどに拘束がきつくなり、とうとう苦しくなった俺は諦めた。
「いつから起きてるんだよ」
「ユーリが起きる三十分ぐらい前かな」
「…はい?」
「気持ち良さそうに寝てたから」
 クスクスと笑うコンラッドの息が耳元にかかる。
「せっかくの休日なんだから、二度寝でもすりゃいいんだ」
「休日だからこそ、そんな勿体無いことできません」
「意味がわからないんですが」
 言っていることはよく分からないけれど、とても楽しそうなことだけは理解できた。
「とりあえず、朝メシ作るから寝てていいよ」
「食事はもう少し後でいいです。それよりも…」
 腰のあたりをホールドしていた手が動き出した。
 ゆるゆると腰骨を撫でる動きがアヤシイ。
「え…ちょ、まて、コンラッド!」
「ユーリが食べたいです」
 髪に柔らかな感触。チュ、と音をたてたキスだ。
 そのまま、額に瞼に、耳元にと逃げられない俺に好き勝手にキスをする。
「昨日もしただろっ」
「ぜんぜん足りません」
 腰を撫でる手はそのままに、もう一方の手がパジャマの裾を捲り上げる。
 こんな朝から。
「ん…、やっ…」
 無遠慮に大きな手が胸を撫でる。
 それだけで肌が粟立つのが自分でも分かる。
「嫌ですか?」
 手を止めないままに問いかけてくる人は、笑顔。
 爽やかでカッコイイよな、なんて思っていた頃があったのが嘘のようだ。今はなんだかとっても怖いものに見える。
 それでもドキドキしてしまう自分は病気かもしれない。
「今日のご飯当番はコンラッドな」
 天気が良いから洗濯しようとか、外に出かけるのもいいなとか考えていた予定は全部キャンセルだ。
 たぶん、今日はもうここから動けない。
 せめてもの意趣返しに、赤くなっている肩の跡へと、昨夜したように俺は噛み付いた。


2009.09.06
たぶんコンラッドは肩の歯形を見せ付けるためにあえてパジャマの上を着ないんだと思います。